新春のお慶びを申し上げます。

「まさしく見えて かなう初夢」

今も昔も年の瀬になると一年を振り返り、溜まった塵や垢を払い清める。

新春の訪れを願って床に就き、目覚めれば初夢と同じ朝の情景が広がる。

世を憂い出家した西行が漂泊の中で詠んだ初春は、無欲で穏やかである。

災難が続く年であればなおさら、来る年に幸あれと祈るほかはない。

国家や地域でも、危急存亡の事態には人知を超えた能力が発揮される。

濱口梧陵は、稲わらに火を放って避難誘導し、安政大津波から人命を救った。

私財を投じて大堤防を築き、後に和歌山県の初代県議会議長を務めた。

風も穏やかな良港こそ津波に用心せよという教訓は、今も南海に遺る。

ここ広島も明治政府が良港を築き、原爆という未曽有の破壊をこうむったが、

人々が新しい世を夢見て努力し、目覚ましい復興を成し遂げた。

世界中で続く天変地異と環境の激変に直面し、人類は夢を失いかけている。

今年は関東大震災から百年の節目にあたり、緊褌一番のときである。

ポストコロナの課題は山積し、もはや座視するしかないとの諦めも漂う。

沈みかけた筏に身を任せず、陸地を目指して棹差したいと願うばかりである。

年暮れぬ 春来べしとは思い寝に まさしく見えて かなう初夢 西行

年頭謹白

本年の皆さまのご健勝とご多幸を心より祈念いたします。

令和五年元旦